4月1日①
- 8月15日
- 読了時間: 3分
初めての修行(という名のおつかい)を通して、この世界に対する理解がほんの少しだけ深まった。例えば、元いた世界とよく似た光景の中に、この世界特有の物が紛れていること。それから——使い魔を連れて歩いている人が、誰もいないこと。ひとまず、タスクを完了して館に戻った私は、自由に使えるお金を少し入手した代償に、4月から学校へ通わされることを知った。
* * * * * *
私が異世界転生デビューを果たしてから、もうすぐ1ヶ月が経とうとしている。この約半月の間で、私の生活は驚くほど——変わり映えしなかった。
朝起きてりんご(仮称)に挨拶したら、すぐにPCを起動。アンデッドが食事を運んできた時以外は、ほとんどずっとゲーム三昧。あれ以来、師匠に修行(という名のおつかい)を命じられることも無かったから、本当にただ時間を溶かしていくだけの日々だった。
(憑依転生前となんも変わんないな~……)
そんな感想が、何の感情も伴わずに浮かんでは、すぐに霧散していくばかりだった。
——いや、違うか。修行(という名のおつかい)に行かされる前と後で、ひとつだけ変化があったんだ。
あの日、街で抱いた違和感——誰も使い魔を連れていなかったこと——を和らげたくて、時折ブラウザを開くようにもなったのだ。
元いた世界でも大変お世話になっていた画面。その検索バーをクリックすれば、「使い魔 危険性」とか、「使い魔 召喚 難易度」といった検索語の履歴が現れた。検索した際にヒットしたのは、見覚えのあるタイトルのゲームや創作物に関するページばかりだった。
今いるこの世界に関する情報は、何をどう検索してみても、一切出てこないのだ。
これは初日からずっと、うっすら疑問に思っていたことでもあった。けれど、私はいつも通り、それらしい解釈を自分の頭の中だけでこじつけていた。
この世界には、情報をネットで発信する文化が無いのかもしれない。あるいは、発信できないように規制されている可能性もある。
そうやって自己完結させてしまえば、不安や違和感も気にならなくなってくるものだ。それが、嫌な感情をそのまま抱えておくことが苦手な私の、常套手段だった。
ブラウザの画面をぼんやり眺めていた、次の瞬間。
「——ぅわぁっ!?」
思わず声を上げたのは、目の前にりんご(仮称)が現れたからだった。
「びっ……くりしたぁ~! ちょっ、そこに来られると画面見えな——」
不平をこぼしながら、ふと画面右下を見る。時刻は7時30分になろうとしていた。
「——あ! もうそろ部屋出ないとヤバいか!?」
ガタッ、と立ち上がる私に、りんご(仮称)はこくこくと頷いて見せた。
「なるほど、準備しろって言いたかったわけね! それはありがとう!」
短くお礼を伝えた私は、ひとまず帽子をかぶって杖を手に取った。
「魔術使えないから、正直これ持ってても意味ない気はするけどな~……」
杖を眺めながら、独り言ちる。けれど、もし他の生徒さん達が全員杖を持っていたら、浮いてしまうだろう。それは私にとって本当に怖いことだ。正直なところ、今日何が必要なのか全く把握していないが——ひとまず魔術師らしい装備でいれば、少なくとも浮くことは避けられる……かも、しれない。
「よーっし、お待たせ! それじゃ、学校に連れてって!」
そう言ってりんご(仮称)の方へ振り向いたのとほぼ同時に、私の体は転移魔術の光に包まれた。
* * * * * *
私達が出たのは、館の外に広がっているのと似たような、木々の生い茂る森の中だった。樹冠の隙間から校舎らしい建物が遠くに見えるから、おそらくそちらに向かえば学校に辿り着けるだろう。
りんご(仮称)はというと、やはりと言うべきか、帽子の中にすっぽりと身を隠しているようだ。
(学校ねぇ~……。クソ憂鬱だけど、初日から遅刻とか気まずいどころの騒ぎじゃねぇしなぁ~。ま、いったん向かうかぁ……)
ゼロとまでは言わないが、あまり良い思い出の無い「学校」という空間。私は死地に赴くような心持ちで、重い1歩を踏み出した。